クレジット
タイトル: Level 899 N - Rotcore: "廃墟むくろの余栄"
著者: Hori ta
作成年: 2025
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階層内のエスカレーターを上った先にある、はめ殺し窓に囲われた大広間。
Level 899 N とは、バックルームにおける 899 N 番目の階層である。
概要
Level 899 N は、長い間使われることなく終いには廃墟と化したホテルの吹き抜け構造が、碁盤目状にどこまでも果てしなく広がっているような屋内空間である。各空間同士はいくつものドアを孕む薄いベージュ色の壁によって区分されている。なおドアについては、1階フロントの壁面に隣り合わせのホテルへ通じる自動ドアが2つあり、2階より上の階にはそれぞれの部屋へ通じるドアが壁に沿ってずらりと取り付けられている。いずれのドアも施錠されておらず侵入は容易である。
各ホテルの規模や内装は一つ一つ異なっており、完全に同一のホテルが発見されたことはない。また、そのため階数も頻繁に変動する。現実世界に存在する空間に酷似した構造も見られることから、「この階層は世界各地にある廃墟の集合体である」という説が現在ますます信憑性を帯びてきている。この階層ではよく天井に大きな亀裂が走っているが、建物の倒壊で放浪者がけがを負った事例は階層発見時から一度も報告されていない。この階層は総じて得られる資源こそ少ないものの、放浪者が想像するような廃墟のイメージに反して居住に適した環境といえるだろう。
詳しくは後述するが、階層内に点在している光の差し込む窓はいずれも非常口の役割を果たしているようで、そこが何階であっても窓の外に出た時点で階層移動が発生し、落下の衝撃を受けることもなくこの階層から安全に脱出することができる。なお、窓のそばで耳を澄ますと、窓の向こうから木々のざわめきに紛れて微かにさざ波の音が聞こえてくる場合がある。この場合、到達先はLevel 474 N となる可能性が高い。その一方、分厚い入道雲が地平線の上に沈殿する光景が見えれば、窓の先はほぼ確実にLevel 536 N となっている。
1階に点在する小部屋。
Level 899 N のホテルの内装は一貫して腐りきった壁材や床に散乱する瓦礫と木片など、放置されてから相当な歳月が経過していることを思わせる様子でありながら、放浪者が滞在している間、ホテル内の至る所に点在する設備のほとんどは絶え間なく稼働し続けており、停止するような素振りを一切見せない。また、明らかに電気の供給が止まっているような古めかしいランプであっても紐を引っ張れば何故か灯りが点いたり、背面カバーが破けて配線が露出しているような電動マッサージチェアが投入口に硬貨を入れずとも休むことなく稼動していたりといったように、一見壊れていそうな機器であっても問題なく作動することが知られている。これらの設備がいったいどれほどの期間動き続けているのか、もはや見当もつかない。
Level 899 N 内ではいやに冷房が効いている。どこからか絶えず鳴り響く空調設備の稼働音は遠くからでもよく聞こえ、場合によってはうるさく感じられる。階層内の気温は一貫して肌寒く、乾ききった空気が放浪者から体温と水分をじわりじわりと奪っていく。低体温症になるとまではいかないが厳しい寒さであるため、この対策としてあらかじめ何らかの防寒具を用意しておくことが望ましい。なお、「そもそも空調設備など何処にも存在せず、どこかの壁に空いた割れ目から冷たい外気が風に乗って内部へと入ってきているのでは」という意見もあるが、これまでに"割れ目"に該当するようなものが見つかったという報告は一切なされていない。
ホテルの出入口にあたる自動ドアを通り抜ければ、そこにはがらんとしたロビーが広がっている。
1階フロント
1階フロントの受付カウンター。
そのだだっ広い空間にかつての人々の賑わいは存在せず、あるのは辺り一帯を漂う静寂と待合スペースのテーブルを隔てて向かい合う背もたれ付きのベンチ、ランプシェードを被った壁掛け照明などの古びたアンティークのみである。これらをよく見ると、落ち着いた色調に細かな文様など、小洒落た意匠がところどころに施されてある。このホテルの自慢の一つだったのだろう。しかしそれらも今や朽ちかけており、色褪せた外見はむしろ寂れた雰囲気を醸し出している。
向かって真正面に見える突き当たりにはL字型の受付カウンターがある。カウンターの上には決まってガラス瓶が2本載っており、内容物は飲みかけのサイダーとウスターソースである。また、カウンターの傍らには照明のスイッチがあり、そこから伸びている配線は千切れかかっているものの問題なく機能するため、周囲が暗いと感じる場合は遠慮なく使用するとよいだろう。カウンター付近の壁紙はところどころ蝕まれているかのように剥がれかけ黒ずんでいる。
向かって左右の壁には入ってきたものとは異なる別の自動ドアがそれぞれ2つ向き合うように設置されており、これを介することで無限に広がるホテル同士を行き来できる。自動ドアは、ガラスが割れて原形をとどめていないが、その外観に反して滑らかに動き、ドアの上部に取り付けられたセンサーの感度も過敏といえるほどまでに機能している。あなたが自動ドアの真下まで来れば、ドアはひとりでに動き隙間に入り込んだゴミを粉砕しながら横方向にスムーズに開閉していくだろう。ともかく、自動ドアを通じて隣のホテルへ移動することができるのである。
上下階に移動するには、後述する移動手段を使う必要がある。
移動手段
Level 899 N での主な移動手段として、年季の入ったコンクリート製の階段や止まることなく不気味に稼働し続けるエスカレーターが地上から最上階まで伸びており、各階にはエレベーターも配備されている。垂直方向へ移動するにはこういった階段やエスカレーター、エレベーターを用いる必要がある。なお、これらの動力源については依然として不明である。
エレベーター乗り場。
エレベーター乗り場付近の壁面にはカラースプレーなどで不気味な落書きがなされていることが多く、頭上を這っているパイプのうち数本は折れ曲がって天井の裂け目からこちらへと手を伸ばしている。また、傍にある消火栓ボックスは扉が開きっぱなしになっており、中にあるはずの消防用ホースなどはどこにも見当たらない。このような様相を呈するエレベーター乗り場であるが、ボタンを押せばゴウンゴウンと稼働音を響かせながら"かご"がほどなくして自分のいる階まで移動し、乗場戸が開くと同時に姿を見せるだろう。かごは極めて安定しており、乗っている途中で支えているロープが千切れるのではないかといった心配は無用である。かごはあなたに僅かな揺れすら感じさせることなく目的の階へ送り届けてくれるだろう。
エスカレーターやエレベーターに関しては、これまでの利用報告からその安全性はある程度担保されているのだが、心理的抵抗からかこれらを積極的に利用しようとする者は昇り降りの大変な階段に比べ、明らかに少数である。
2階で階段を振り返った光景。
部屋の種類
吹き抜けの奥に入るとこのような廊下に出る。そのまま真っ直ぐ進めば吹き抜けに戻ることが出来る。
Level 899 N の廊下は、壁の塗装が剝げ落ちていたり天井の一部に亀裂が走っていたりと、ホテル全体において一貫している荒廃した雰囲気は変わらず健在だが、中でも比較的新しく劣化が進んでいない場所であるとされている。基本的に片方の壁には各部屋に通じるドアがずらりと並んでおり、もう片方の壁には窓が整然と連なっている。前述した通り、このような窓はいずれも非常口の役割を果たすようで、何階であっても窓の外に出た時点で階層移動が発生し、この階層から脱出することができると分かっている1。
ほとんどの廊下は、片側の窓から差しこむ光によって常時明るく保たれている上に、たとえ窓のない区画であっても必ず頭上のペンダントライト2の明かりが灯っているため、何一つ不自由なく内部を探索することが出来る。なお、廊下の窓のある方の壁には1階フロントにあったようなベンチが目算10mほどの間隔を空けて設置されているため、廊下を歩いていてふと疲れを覚えた際はこのベンチで少しの間休息を取ってもよいだろう。
Level 899 N の吹き抜け/廊下にある客室のドアを開けた先に広がる空間は必ずしも客室とは限らず、特筆すべきことに浴室やトイレなど3へ通じている場合もあるようだ。
また、この階層最大の特徴として、1つのホテル内の数十~数百にも上るそれらの部屋部屋の内装は、その全てにおいてまるっきり共通している。内装は隅々まで完全に再現されており、そこに放浪者が手を加えない限り全ての部屋において中の様子が共通しているものと思われる。具体的に言えば、部屋に散乱している割れた皿の破片の形や大きさ・配置から、家具に降り積もったほこりの厚さに至るまで、あらゆる特徴が残りの部屋すべてと一致している、といった具合である。そのためどれだけ多くの部屋を漁ろうと、一つのホテル内で見つかるのは決まりきった物資のみであることに留意してほしい。
ホテルによって部屋の内装は異なっており、あるホテルでは浴室のみが、あるホテルではトイレのみが広がっていたりする。もしあなたが食事をしたいならば、浴室のみのホテル内では決して食料品を見つけられないため、必要に応じて他のホテルへ移動する必要がある。
ここでは、これまでに確認された部屋の種類について話す。
客室
客室のキッチン。
最も見つかる頻度が高く、尚且つ最も多くの物資が得られるとされる空間である。客室内は割れたガラス窓から差しこむ太陽光によって絶えず明るく保たれているものの、ゴミの散乱した床に横たわる椅子、そして壁や別の家具にもたれかかる大きな戸棚と冷蔵庫など、夥しい数量の障害物が存在しており、決して落ち着けるようなスペースではない。そのひっくり返った内装は時折放浪者に地震発生後の様子を想起させるほどで、床はゴミで埋まって足の踏み場すらもない状態である。ガラス窓の方を見ると、劣化して千切れたカーテンの布地がぶらりと垂れ下がっている。
不気味なことに客室ではガスや水道、電気などのインフラが整えられているほか、インターネット回線まで完備されており、そのごちゃついた内装に目を瞑れば概ね快適な環境と言えるだろう。また、客室に備え付けられたキッチン付近の床には人参や玉ねぎといった食材が落ちている事がある。これらは拾ってそばにある流し台で水洗いをすれば食品衛生上の問題なく摂食可能である。さらに、料理ができる放浪者なら洗った食材と元々そこにあった調理器具を用いて簡単な炒め物や揚げ物・焼き物などを作る事ができるかもしれない。流し台の下についている戸棚の中に大きなオイルボトル入りの食用油があるので、揚げ物にはそれを使用するとよい。
そばにある冷蔵庫は入室時ドアが開いた状態で、閉めない限りはひんやりとした冷気を口から延々と吐き出している。冷蔵庫は電気供給が途絶えていても問題なく稼働しており、食品の冷却や保存に利用可能である。しかし保存の必要はない。なぜならば、これは客室で手に入るものに限ったことではないが、この階層から持ち出された食料はいずれも腐敗の兆候を示さないためである。これはしばしば放浪者によって「まるで時が止まっているかのようだ」と形容されることもある。もちろん、カウンターで入手したサイダー等を冷却する分には間違いなく有用である。
客室のふとん。客室には電気が通っているため、枕元のコンセントに充電ケーブルを挿しこめば、寝ている間に携帯端末を充電することができる。なお、ふとんの上にある白い電話を使っても現実世界の番号にはつながらず、誰もいないホテル階下のフロントにコール音を響かせることしかできないようである。
客室内を一通り見て回れば、ベッドや布団などが見つかることがある。これらで睡眠をとることもできるが、決して寝心地がよいとはいえないだろう。これは、敷布団の下敷きになっているマットレスの裂け目から中の綿がわずかにはみ出していたり、支えのスプリングが中から飛び出して放浪者の眠りを妨げたりするためである。また、発見時点では多くの場合敷布団の上に何かの破片が散らばっているため、この破片の処理を避けるという意味では、1階フロントや廊下にあるベンチに寝転んで睡眠をとった方が得策であろう。
浴室
おうぎ形に縁どられた浴槽。
廊下のドアを開けると脱衣所といった構造を挟むことなく、いきなり水色のタイル張りの浴槽が1つあるのみでシャワーなどはないシンプルなつくりの浴室に出ることがある。タイルはところどころ剝がれ落ちており、破片で覆われた床の上を素足で歩くのは危険だが、それにさえ気を付ければ比較的快適な空間といえる。
浴槽の壁に取り付けられた、赤いシールのついた蛇口をひねれば熱湯が出てくるため、そのまま数十分ほど放置していれば浴槽いっぱいにお湯を張る事が出来る。ただそのままだと少し熱いため、もう片方の青いシールのついた蛇口をひねって冷水を出し、自分好みに温度を調節してから入浴するとよいだろう。また、浴槽内には腰かけられる程度の高さの石段が存在するため、湯船に浸かる際はこれに身を任せると腰を痛めずに済む。
トイレ
ドアを開けて真っ先に目にする光景。
トイレは白タイルを基調としたつくりだがそれが清潔感を演出することはなく、むしろ所々に見られる黒ずんだシミが老朽化した雰囲気を醸し出している。トイレに至っては床のタイルが分厚い土壌で埋まっており、その上に、もはや見慣れた空き缶や空箱などのゴミ類・瓦礫が雑然と散乱している。土壌の盛り上がっているところは足場が不安定で、放浪者がその上を歩けばたちまち音を立てて崩れおち、土煙を立てる。便器まで土をかぶっており、便座の表面に付着した土くれを手で払いのけない限り、とてもではないが使用できない状態である。
洗濯かごが詰め込まれた便器。
トイレには洋式便器が数基ほど設置されており、これで用を足すことが出来る。しかし便器はボロボロで、陶器製タンクに付いていたであろう蓋はどこかへ消え失せ、便座には決まって穴を塞ぐようにして洗濯かごや煉瓦ブロックなどの異物が詰まっている。ただ、このような便器であろうとも異物を取り除きさえすれば問題なく用を足せる。また、とても信じがたいことだが、大きな亀裂が走ったような一見使えない便器であっても放浪者が使用後に便座から立ち上がった直後、それをセンサーか何かで感知したのか、ちょうど良いタイミングで勢いよく水が流れはじめることもあるようだ。
備考
- Level 899 N では廃墟であるにも関わらずWi-Fi が通っている。これは非常に信頼できる強度を誇っており、階層内のどこにいても安定してインターネットに接続することが可能である。なお、パスワードが設定されているためそれを入力するまで利用はできないが、客室の比較的目立つ場所にパスワードの書かれた付箋が貼られているため、知ることは容易である。また、SSIDは"あさき第一観光ホテル"である。
- ホテル同士の配置は報告によって異なるが、一度通ったホテルの様相が再訪時に変化していた、という報告はない。そのため、地図があるとかなり便利である。早いうちに客室などで紙類を手に入れて、過去に訪れたホテルの配置とそこの部屋の種類、探索の済んだ部屋の番号・エリアの範囲などをあらかじめメモしておけば、以降は特に迷うことなく階層内を探索することが出来るだろう。
- 前述したように、エレベーター乗り場付近の壁などにカラースプレーで落書きがなされている事こそあるが、それをした張本人はどこを探そうと見つかることはない。また、部屋の隅の方にクモの巣が張られていてもクモ本体はどこにも見当たらない、といったように当階層にはいかなる実体も存在しないことが分かっている。
淹れたてかのように温かいコーヒーとともに、客室に積もったゴミの山の上に残されていた書き置き。
入口と出口
階層への入り方
- Level 14 N の真っ白な通路で脈絡なく接続されているエレベーターを見つけ、そばにあるボタンを押すと扉が開くが、その先に想像していたようなカゴや穴はなく、 Level 899 N のエレベーター乗り場にそのまま直接つながっている。
- Level 616 N で、森林の中にそびえ立っている朽ち果てたホテルの写真と"あさき第一観光ホテルへぜひお越しください"の赤文字が挿入されたポスターにある予約用の電話番号へ電話を掛けると、その時点で Level 899 N の1階フロントの受付カウンターの前に立っている。
- Level 904 N のホテルの廊下でいくつもの客室の扉を通り抜けているうちに、いつの間にか Level 899 N の古ぼけた廊下に迷い込んでいることがある。
階層からの出方
- Level 899 N の廊下で光の差し込む窓から外へ出ると途端に意識を失い、気がつけば Level 474 N の潮風香る遊歩道の上か、 Level 536 N の広大な草原を横断する道の上で佇んでいる。
- Level 899 N の浴室で湯船に浸かっているうちに睡魔に襲われ、ついうたた寝をしていると Level 909 N の露天風呂に浸かった状態で目を覚ますことがある。
- Level 899 N で自動ドアを通り抜ける際、ふいに背後から「またのお越しをお待ちしております」という不明な存在の声4が聞こえた直後、あなたは Level 34 N の暗い夜道へ空き地を背にした状態で到達している。

