クレジット
タイトル: Level 847 N - Weirdcore: "秋が私たちを食べている"
著者: incorrectsummary
作成年: 2025
本記事はCC BY-SA 3.0ライセンスの下で提供されていますが、一部または全部に部分適用されたCC BY-SA 4.0ライセンスのコンテンツが使用されています。本記事の作成者、著者、翻訳者、または編集者が著作権を有するコンテンツは、原則としてCC BY-SA 3.0ライセンスの下で利用することができ、CC BY-SA 4.0ライセンスの付与がされた箇所についてはCC BY-SA 4.0ライセンスの下で利用することが可能です。
「コンテンツ」とは、文章、画像、音声、音楽、動画、ソフトウェア、コードその他の情報のことをいいます。詳細なライセンス表記は記事内またはディスカッションをご確認ください。
よく聴いてください
あなたが Level 847 N でこれを読んでいる場合、
記述の内容は 著しく信頼性を欠く 場合があります。
幻覚に注意し、慎重な判断を行っています。
そんな私と、あなたは、とてもよく似ています…
あなたの遠くで音読が始まっていることに気がつきますか?Level 847 N とは、バックルームにおける 847 N 番目の階層であり、現在地である。
概要
Level 847 N は、不可解かつ夢のように支離滅裂な「幻覚」が渦巻いていて、私たちがミルクのようにぐるぐると、ぐるぐると混ぜ合わされている階層である。それは白霧が薄く煙る森のような空間であり、その果てしないほどの繰り返しである。霧と木々が視程を閉ざす静かな森は、しかし幻覚によって時にモアレのように揺らぎ、あるいはノイズのように蠢いている。
Level 847 N に侵入した者は、絶え間なく強力な幻覚に襲われ続ける。この幻覚から逃れる術は階層からの脱出を除いて知られていない。Level 847 N において撮影および録音等されたメディアにも、幻覚とほぼ同様の内容が記録される。しかし、メディアに記録される幻覚は拙い加工技術によって後から追加されたかのようであり、場違いで胡乱な印象をもたらす。記憶のミルクを掻き混ぜるのはあなたで、それは私のことで、私の手はもう粗雑に掻き混ぜ続けているから、べたべたになっているのです。
Level 847 N からの出口は、あなたの部屋である。
森
Level 847 N に迷い込んだ者の多くが最初に知覚するものは、霧に包まれた森林の光景である。白い霧は遠ざかるほどに輝きを増し、奔放に葉を伸ばす木々が落とす陰との不可解なコントラストを為している。その光と陰に塗り残されたような曖昧な色で、梢越しの陽光が落ち葉を照らしている。
霧によって空は見えない。見上げれば、樹冠の先を真っ白な霧が満たしている。太陽の位置を知ることはできず、木漏れ日も差すことはない。覆い被さるような枝葉の向こうで、空の全体が淡く眩しい光を放っている。
層をなす落ち葉の柔らかさに、体がほんの少しだけバランスを崩す。「足首や脛の辺りまでが腐葉土に埋まった状態で立ち尽くしていた」とは、階層侵入時についての典型的な報告内容である。出ていってくれ、と思う。この場所にずっと立っていたかのような疲労を、足が覚えている。早く出て行ってくれ。一刻も早く。杭を打つような心臓の鼓動が、体の中から聴こえてくる。
ふと、直前までの記憶が曖昧であることに思い至る。
でも、どうして?Level 847 N の気温は、今まさに夏が終わったかのような中間的状態を維持しており、熱気と冷気の一時的な均衡を肌に感じさせる。まとまりのない微風は緩やかに渦巻き、森に満ちる植物の湿度を押し混ぜている。雨上がりのように湿った土のにおいが時折するが、降雨があったという報告はない。
この空間に夜が存在するか否かについても、明確な情報は知られていない。しかし多くの放浪者は「夕焼け」から逃れるために建築物を探そうとする。これは実際の照度変化に基づく行動ではないようであり、この過程で撮影された写真はいずれも昼光の明るさである。なぜなら、夕焼けはとても恥ずかしがり屋だからです。こっそりと偽物の木を通って、夕焼けはやってきます。ジラジラと光る偽物の木。だけど、夕焼けはゆっくりとしか指を伸ばせないので、大丈夫です。
森の中で発見される建築物のほとんどは、打ち捨てられた小屋ですから、いまの私たちとお揃い。点在する小屋はどれも同じ顔をしていて、全く同じ構造であり、ちょうど私とあなたのようです……小屋と周辺の木々の配置を注意深く確認し続けていると、その位置関係は常に変動していることが分かる。というのも、当然ながら小屋は彷徨っていて、どこにも辿り着くことはできず、ぐるぐると延々と回り続けていて、しかし、小屋と木々の配置が変化する瞬間を認識することは不可能である。
この小屋と木々の位置関係の不安定さを形容するならば、「何度くりかえしても数え間違えてしまうために、決して正しい数を知ることができない感覚」に似ているとされる。木々と霧の奥に建つ朽ちかけた小屋、動いているようには見えないそれを訝しんで眺めつづけていると、気が付かないうちにその外壁に片手が触れていた。生暖かいベニヤ板の外壁。薄汚れた色の地衣類が壁を斑に覆う、ざらざらとした感触。視界はすでに、目前の壁面にほとんど塞がれていた。ついさっきまで誰かが語りかけていた気がして、すぐにそれは鳥の声だと気が付く。壁を離れて小屋を回り込むと、割れた窓ガラスから中が見えた。何もない。何も。この森には鳥なんていない。
夕焼けは小屋を呑み込むだろう。夕焼けの歯が屋根を軋ませる。黄色く輝く夕焼けの歯。だから小屋は彷徨っているの? 幼いわたしは尋ねる。ゆえに小屋を滞在場所とすることは難しく、わたしは Level 847 N の森を当てもなく放浪し続け、やがて壁の家に辿り着く。
壁の家
共通して報告される建築物、「壁の家」「壁の家」と呼ばれる長大な建築物は、森の中で唐突に出現する。つまり廃小屋と私たちは、懐かしい家路を辿り彷徨っていたのです。そう理解すると、踏み鳴らしてきた落ち葉の一枚一枚が古い顔なじみであったことにも簡単に気が付きます……ほんとうに簡単。森を立ち塞ぐような壁の家は、どこまでも一直線に、延々と続いている。見上げる上階はすぐに霧の中へと消え、しかし空のどこにも存在しない夕焼けを明瞭に反射している。「自分の部屋がこの中にある」のだと、Level 847 N へ辿り着いた者は口を揃える。
壁の家では施錠されていない歪んだ扉が手招きをしていて、扉の先は薄暗い半地下室である。ドアノブに触れると、ドアノブが私の手を優しく握り返すのが分かる。愛が、アルミニウムを温めていく。再会の涙に濡れた、歓喜の嗚咽と絶叫が聞こえてくる……だけど、叫んでいるのは誰? すぐに喉が痛みだして、私が叫んでいるのだと教えてくれる。そんな私たちに、「おります」と、誰かが囁く。この扉は壁の家への唯一の入り口である。
扉は半地下室の床から1メートルほど高い壁面に通じており、転落に注意が必要である。帰ってきた。床は部分的に濡れていて、帰ってきた! 薄く張った水溜まりの反射が仄暗い空間の奥で光っている。「ただいま」の挨拶を忘れたの? 青空に挨拶をして。水溜まりに映っている青空が見えない?
名残惜しくも扉を振り返ると、真っ暗な穴が空いています扉から飛び降り、半地下室に入ると、床に積もった埃が大量に舞い上がる。振り返ると、先ほど通ってきた扉は既に存在しない。そこには大きく真っ暗な、そして遠近感のない穴、いつでも私の部屋に居てくれた優しい穴がぽっかりと空いている。吸い込んだ息からは、安心できる埃の臭いが肺いっぱいに広がる。窓は不可解にも、外側から見たときより低い位置に並んでいる。
半地下室は殺風景な空間である。上階へ繋がる金属製の螺旋階段を除けば、小さな一脚のテーブルだけが薄暗がりの中に佇んでいる。それは、森からの贈り物。テーブルには天板とほとんど同じ大きさの白い皿が乗せられており、椚の薪火でよく焼けたラムチョップが盛り付けられている。あなたのために死んだ、優しい椚の木。もうすぐあなたの一部になる。
10年後、何になっていると思う?このラムチョップを口に運ぶ前に、しっかり数えておきましょう。 1、2、3、はい、大きな声で。 4、5、6、口を大きく開けて。 7、8、もっと。 9、痛みを感じる? 10、大丈夫。あなたは何度も来ているのだから。
10本目と11本目の間、大切なことですが、森の木々があなたの為にゆっくりと噛んでくれたのです。ハーブソースに潜らせ、肉汁が繊維から滲み出し、骨髄まで歯切れよく、葉が混ざり、それが0番目。
そして、11。ほらおいしそう。昨日だって、これが好きだと言っていたでしょう。
さあ、12。 嬉しい?
13。
安全にご使用いただくために
13本が確認できまして、本日は大変嬉しゅうございます。0番目から参りましょう。木々の咀嚼が緑色に染め上げた甘露の羊肉をお召し上がりになってください。お口を時計のように進ませ、舌を昇らせていきますと、ぬるぬるした温かな団欒を確定する。骨から骨へと跳び移り、枝葉がワルツを踊りますのは三日三晩といった具合で、肉から骨が生えるように、土には木々が生えるのです。あなたの骨も水をぐんぐん吸っていきまして、床が濡れているのはそのためである。
上階へ通じる螺旋階段旨味を味わう舌先に、何か小さな球体が触れ、それは赤色の味がする。肉の繊維に絡まる球体。咀嚼するほど増えていくのに、噛もうとすると何処にも無い。そういうことが、時々ありませんでしたか。左の奥歯で振り返ると、喉の奥から上へと伸びる螺旋階段を、球体たちが指し示す。その先は脳であり、私の部屋はそこにあるべきだと分かる。木々は上を目指すものだから。
螺旋階段へと噛み進み、口いっぱいの球体を飲みこむ。舌を滑る球体たちの赤い味覚が、喉の奥へと落ち込んでゆく。その上方を見上げると、螺旋階段は脊椎のように踏板を並べ、樹木のように黒々として、上方の暗がりに続いている。球体たちとは反対の方向へ、私は私の部屋を目指して、上り始めたんです。
階段
螺旋階段は次第に直階段へと移行し、それは踊り場や短い廊下を挟みつつ、どこまでも上る長い長い階段である。床面は深い赤色のカーペットに覆われ、コンクリートの壁面は落ち着いた色の壁紙に変わる。時折、油のような見慣れない染みが壁に広がっていて、ここを汚したのはいつだったかと記憶を辿るも、喉の奥から少しずつ、何もかも見知らぬ場所にいるかのような、ひどく心細い恐怖が込み上げてくるので、それ以上は思い出そうとしなかった。一段また一段と上るたびに階段はやはり懐かしく、この手すりの感触、ニスに覆われた木目の感触は、ここでの思い出を鋳型にして作られたみたいにぴったりと密着するんだあなたの手のひらに。
どうしたの?手触りが与える強烈な安心感はあなたを手すりに縋りつかせ、それは階段を上ることすら出来ないほどの渇望にまで膨れ上がってゆく。そうして恐ろしい懐かしさに震えているあなたを、白くて長い「柱の脚」が、歓迎しに来てくれました。わたくしどもは皆、音もなく階段を降りてきた白い柱と「思い出話」をしたと口を揃え、その内容はとても心温まるものでしたね。
あなたがまだ丘の上に一人で、枝葉を風に揺らしながら生えていた頃を憶えてる? あなたは無知で、完結していて、どこにも帰らなくてよかった。この階段の手すりは、あの頃のあなたを削り取って作られたんです。だからそんなに、泣いてしがみつくんですね。でも今は、ごめんなさい、帰りなさい、出ていきなさい。かく言うわたくしも、いまではこんなに白い柱ですが、同じくあの頃のあなたから削り取って作られたんです。夕焼けが、あなたをここに連れてきた時に。
柱は不可解な記憶を語り、やがて唐突に沈黙する。とても騒がしい場所から抜け出してきたかのような、奇妙な静けさの感覚が階段を満たす。白い柱に感じていた親近感も、熱が冷めるように少しずつ引いてゆく。私の部屋に帰るしかないのだと、今やはっきりと理解している。死んでしまった柱を置き去りにして、根のような足取りで階段を上ってゆく。
あなたの部屋
放浪者は、居間のような部屋の中央に立っている。思い出せるのは、見上げる階段の終端から、この部屋の白い壁が徐々に姿を現していく光景である。以前にもそんな壁を見た記憶が確かにあり、それはいつかの午後、息を殺したように静かな午後の、誰もいない家の光景だった。
目前、壁のひとつが欠落し、透き通った青空が広がっている。その向こう側で、私の部屋が待っている。
壁面に広がる青空青空からの清涼な風が、部屋を吹き抜ける。青空とは澄み切った空気そのものであると、部屋のあちらこちらで風が囁いている。雲の流れが、私を空の全体で手招きしているように蠢く。
二脚の白い椅子が笑う。「帰りなさい、出ていきなさい。夕焼けがあなたを待っているから」。その瞬間、七色の虹と共に、美しい輝きがきらきらと風に乗って溢れ出す。気が付いた時にはもう、青空のなかへと走り出している。
おかえりなさい おかえりなさい飛び込んだ青空の道を、一心不乱に駆ける。フローリングは青空に真っ直ぐと伸び、その先では私の部屋が待っている。頭上、そして眼下を巨大な雲が押し寄せては流れ去り、虹は完全な円環を描きながら広大な青空を浮遊している。日差しの強さとは裏腹に、大気はよく冷えている。祝福のような真昼の太陽が、背後から温かな熱を投げかけてくる。それすらも振り返らず、私は青空に伸びてゆく。ずっと帰りたかった私の部屋が、刻一刻と近づいてくる。
真っ黒な入口が近づいたとき、青空の深い底から、色とりどりの風船が一斉に湧き上がる。大量の風船は上昇する水位のように青空をカラフルに染め、紐を風にはためかせながら、わたしを見下ろせる高さにふわふわと留まった。よく見れば紐のはためきは、私へ向かって手を振ってくれているのだ。歓声に包まれながら、真っ黒な入口の奥へと私は帰り着く。最上の安堵の笑みを浮かべながら。
あなたの部屋その部屋に入ると、背後で強く扉が閉まる音がする。熱狂は途絶え、その部屋には静寂が根を張っている。知らない家にでも足を踏み入れたかのように、あなたは様子をうかがいながら壁際に近寄る。その部屋は青空のように空っぽで、それはあなたの部屋である。窓の外、ブラインドの向こうからは、夕焼けの光が差し込んでいる。あなたがそんなにも帰りたがっているのは、夕焼けが怖いから。自分の部屋とはつまり、それ以上はもうどこにも帰ることが出来ない場所なのだと、あなたは気が付く。その部屋に入ってきたあなたに、偽物の木々たちが、葉擦れを鳴らしてゆっくりと振り向く。
入口と出口
階層への入り方
- あなたは森から来た。
- Level 89 N において、やむを得ず2メートルほどの高さから飛び降りたところ、Level 847 N へ移動したとする報告が存在する。降りたのちコンクリートの地面に着地するはずが、なぜか地面が腐葉土のように沈み込むような感触を脚に覚え、そのままバランスを崩して転倒した。コンクリートの床面が目前に迫る視界を最後に意識を失うと、次の瞬間には Level 847 N の森の中で立ち尽くしていた。
- Level 221 N の建造物の内部から、Level 847 N へ移動したとする報告が存在する。がらんとして何もない建造物の内部には、隣接する発電施設の低いモーター音が響き渡っていた。ふと耳を澄ましたとき、くぐもった低音のノイズの中に交ざって、さらさらとした高周波のノイズが微かに聴こえた。一度聞こえてしまうと、それまで気が付かなかったことが不思議なほどにその音は響き渡り始め、それは風に揺れた葉と葉の触れ合う音、あの夏が太陽を連れ去ってゆく別れに色めき立つ総喝采だったのです。
階層からの出方
階層からの主な脱出手段として、「あなたの部屋」を経由する二通りの方法が知られている。
- 「偽物の木々が囲んでいる青空へ飛び降りる」と、Level 6.1 N の丘の上へ移動する。
- 「夕焼けの差し込む窓を開けて森へ飛び降りる」と、Level 438 N の未知領域である三階へ移動するとされる。
しかし、Level 847 N に侵入した者の半数ほどは、自らの意志によって「自分の部屋」に留まり続けるようである。そのような放浪者は、バックルーム・ウィキ上に短期間繰り返す投稿において「自分の部屋」で不自由なく生活しているかのように装うが、その言動は意図の不明なものも多い。
Level 847 N 内部からバックルーム・ウィキにアクセスする方法は不明である。ただし、ある放浪者は「どこか自分の身体の中で端末を開いていたような気がする」と証言している。
「私の部屋」としてウィキに投稿され続ける写真の一枚
