Level 671 N とは、バックルームにおける 671 N 番目の階層である。
概要
Level 671 N の 写真。(2022年撮影)
Level 671 N は、一般的な洋室に、畳を敷いて襖を置くなどして無理に日本家屋のような体裁をなしたような部屋が無数に接続され、入り組んだ迷路のようになっている階層である。空間全体の温度は20~25℃ほどに保たれていると考えられ、空気はわずかに湿っている。
この階層では、部屋の隅に保存食の乾パン、黒豆を連想するような独特の香りがするキャラメル、古い傘などいくつかの物資がみられることがあるため定住可能であると推測される。ただ、この階層への長期滞在はあなたにとって致命的ではないが、身体に恒久的な影響を及ぼすことで知られている。幸い、この階層から外れ落ちること自体はその空間の不安定性から容易である。もしこの階層に到達してしまった場合はなんらかの手段を用いてなるべく早く脱出することを推奨する。最も知られている安全な階層への脱出方法は、各部屋の天井からぶら下がっている電灯のスイッチを引くことである。それ以外の階層の入口・出口については後述する。
特異な影響
この階層が及ぼす影響は概ね、その罹患者によって「階層と体が融け、混ざりあっていく」と表現されることが多い。その内情は複雑多岐にわたり、それらを客観的に正しく記述することは難しい。したがって、以下の記述は罹患者の報告からほとんどを引用した抽象的かつ主観的なものであることを留意してほしい。
1. 感覚の発達
Level 671 N に外れ落ちて数十分ほど経つと、まず自分の視力が妙に良好になっていることに気づくであろう。何枚もの開きっぱなしの襖の先にある部屋の隅の壁までくっきり見通せるように感じたのなら、それはこの階層の精神影響が始まっている黄色信号である。この段階で階層から脱出すれば、この階層の影響が恒久的に残り続けることはないと考えられる。
同時に、「自分の歩く音が確かに足元から鳴っている、という認識がより確固たるものとなる」という要旨のことが起こるようである。これはおそらく、聴覚が普段より研ぎ澄まされているのだろう。
2. 階層全体への感覚の拡張
Level 671 N の 別の写真。
さらに数時間ほど経つと、「自ら知覚できるものごとの範囲が、階層全体へと拡張される」という奇妙な現象が起こる。具体的には、本来物理的に見えていないはずの方角や、階層内の遠く離れた場所までもをどうにかして"観察する"ことができるようになる。明らかに特異な例として、こめかみのあたりに力を入れることで、無限に広い和室の中を歩いている自分を上から観察することさえできるようになる。
同時に、自分の触覚が階層全体に対して浸み出していくような異常な体験が発生する。階層内で歩くたびに、自分の身体のどこかわからない場所を誰かに甘噛みされているようなむず痒い感じを覚えることがその予兆である。これはつまり、あなたが立っている足元の畳があなたの身体の一部ということになっており、畳が感じている痛みをあなたが追体験しているのである。
このことに自ら気づいたときには、あなたの身体はすでに階層全体へどこまでも染みわたっているだろう。それを示すように、「天井にほこりっぽい風が当たってくすぐったかった」「階層内で滑って転んでしまい、壁に頭をぶつけた時、その壁にまでも自分の知覚が染みわたっていて、自分の身体のその壁の部分が痛いと感じた」「襖を開ける際、指先で背中を撫でられるような薄ら寒い感覚があった」など、単純に文章にすれば意味が通らない明らかに異常な報告が数多くなされている。
3. 階層全体への身体の拡張
更なる時間が経過すると、あなたを取り巻く現象はもはや感覚器官の異常だけに留まらなくなる。指を曲げるようにするか、まばたきをするようにして階層内の襖に力を入れることで、触れることなく目の前の襖を開閉できるようになるなど、自己と階層の間の識別がなくなり、階層全体が自分の器官の一部であるように動かすことができるようになる。
しかし、現状の自己認識に限っては正常に行うことができるようであり、あくまで自分自身の意識は階層内を探索している自分という立場として残り続ける。
4. 恒久的な影響
この階層で起きた感覚器官への影響の一部は、あなたが Level 671 N を脱しても寛解することはない。例えば、他の階層へ移動したとしても視覚が Level 671 N に拡張されたままなので、気を抜けば視界の端に常に古ぼけた和室が映りこむ。その他、畳から漂う干し草の香りをいつまでも感じられたり、まだ体に力を入れるようにして階層内の襖を開け閉めできる感覚があったり、時々階層の一部がずきずきと痛むように感じたりするようである。これはまるで、あなたの身体の一部が引き離されて、階層内にまだ取り残されているように感じられる。
また、自分の記憶の一部が思い出せなくなる、健忘のような影響も存在すると考察されている。これについては、「腕に見知らぬハンコ注射の跡があった」「スマートフォンの写真フォルダに見知らぬ公園の画像が10枚ほどあった」など身の回りの些細なことを忘れていることを示すような報告から推測されたものである。「自分や友人の名前を思い出せなくなった」と述べるようなわかりやすい報告が確認されているわけではないため、まだこの影響の存在は考察の域を出ない。ほかにも、出生が全く異なるはずのさまざまな Level 671 N 被影響者が幼少期の体験についてほとんど似たような言及をする傾向がある、Level 671 N 被影響者が行ったことがないはずの地域について異様に博識であるなど、さまざまな違和感が報告されている。もっとも急進的な考えでは、Level 671 N の影響を受けた者の記憶は、すべて Level 671 N を通してお互いに共有されてしまっているのではないかという説も存在している。
5. その他、不明な影響
「何かを思い出すようにして階層内の天井に力を入れることで、普段使っている脳とは別の方法で考え事ができるようになった」という報告がいくつか存在している。これは Level 671 N に影響者のみが直感的に理解することができる、新たな思考の方法であると考えられるが、それがどのような状態を、何を指しているのかは定かではない。それを感じた者によると、その思考は Level 671 N に存在しており、自分自身ではないとも、自分自身と全く区別できない存在だともいえる。その思考方法に対してはポジティブな言及がなされることが多く、最も端的に表された言葉としては「目標」が挙げられた。
入口と出口
Level 149 N の壁面に不自然に開いた Level 671 N の入口。
階層への入り方
- 他の階層で、壁面に食い込むような形で不自然に和室への入口が開いているのを見かけたら、それは Level 671 N の入口であると考えられる。「床に大穴が開いていて、その下が畳になっていた」と報告で述べられていたような、明らかに危険な開き方をしている入口も見かけられる。このような空間へと一歩でも侵入したのち、気がついたら入口が消失していて外れ落ちたことを自覚するケースが多い。このような入口は、Level 24 N、Level 149 N などで見つかることが多い。現実世界 からの侵入例も一件のみ知られている。
- 他の階層から Level 670 N に移動した瞬間、Level 671 N に外れ落ちることがある。
階層からの出方
- Level 671 N 各部屋の天井からぶら下がっている電灯のスイッチを引くと、気づいたときには Level 112 N の洋式トイレに座っている。このとき、階層が及ぼす影響により、「耳を強く引っ張られるような」と表現される痛みを伴うことがあるので注意が必要である。
- Level 671 N で手拍子がかすかに聴こえる方向へ進み続けると、いつのまにか Level 211 N の空の浴槽で体育座りをしている。階層が及ぼす影響が進行すると、相当に遠くから鳴り響いている手拍子まで聴きとれるようになる。
- Level 671 N の床に落ちている提灯を踏みつぶすと、そのまま床に外れ落ちて気づいたら Level 575 N の交差点中央に立ちつくしていることがある。このとき、四方の信号機・および歩行者信号機は必ず、すべて赤色を示している1。

