Level 66 N
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危険度: n/a
空間信頼性: 不安定
実体信頼性: 実体なし
情報提供待ち

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放浪者の実家の姿をとった Level 66 N の一部。なお、画像は放浪者の幼少時からずっと引きこもっていた兄の私室であり、放浪者に入室した経験がなかったため、階層の特性により内部に水族館が広がっていた。

Level 66 N とは、バックルームにおける 66 N 番目の階層である。

概要

Level 66 N がどのような空間であるのかについて語ることは非常に難しい。なぜならば、Level 66 N の外観は到達した者によって大きく異なり、定まった形というものがおよそ存在しないからだ。また、このような階層群がそれぞれ別の階層ではなく、同一の階層として定義されるに至った理由は、後述する特性が一致していたためである。

このような事由から、当階層についての情報は不十分であり、予期せぬ事態が起こる可能性が高い。また、 Level 66 N では物資の調達は期待できず、なおかつ階層内の飲食物についても外見や味に関わらず非常に栄養価が乏しいと思われる。以上のことから、当階層への積極的な到達は推奨されていない。

先述の通り、当階層は訪れる者によって大きく変容する。では、どのような姿をとっているのかといえば、それは放浪者が最も鮮明に記憶している空間1である。ただし、いずれも夜間であるという点2だけは共通している。

この記憶の再現精度は非常に高く、放浪者によれば外観だけでなく、匂いや音、飲食物の味に至るまで、不自然な点はおよそ見当たらなかったという。さらに、階層内に人物が現れた例も稀ではあるが報告されている。これは主に、放浪者の親族や友人など、強く記憶に残っている親しい人物である場合が多い。これについても、その容姿、仕草共に記憶との齟齬は存在せず、簡単な受け答えをする限りでは違和感を覚えなかったと放浪者からは報告されている。これらの高い現実再現性から、 Level 66 N を現実世界と誤認する放浪者も少なくない。

また、特筆すべきこととして、 Level 66 N は通常時においては非常に空間安定性が高いことが判明している。一方で、他階層へ移動する出口の類いは一切発見されていない。そのため、現時点で判明している Level 66 N からの脱出方法は、次項で述べる現象および階層の特性を利用し、空間を不安定化することで他階層へ外れ落ちる以外にない。とはいえ、ことさら難しい方法ではなく、また、仮に知らなかったとしても、大抵の場合は階層内での行動によって自然に条件が満たされ、他階層へ外れ落ちる。そのため、長期間にわたって当階層へ取り残されたという報告は現時点では存在していない。

階層の特性と脱出方法

これは本来、後の「階層の出方」の項で記述すべき内容ではあるが、当階層の脱出方法の特殊性及び、空間の特性と密接に関連する点を鑑み、当項にて解説する。

Level 66 N の脱出方法は、端的にいえば、階層内の「これまで知覚した記憶のない箇所」を知覚することである。これは、五感の内のいずれに関するものであっても構わない。当階層は一見すると、放浪者の記憶上の現実世界に酷似しているが、このような箇所に関しては、記憶の再現が不可能であるためか、明らかに非現実的な様相を呈しているのだ。詳しくは後述するが、この行為を幾度か重ねることにより当階層の空間は不安定化し、放浪者が他界層へ外れ落ちる可能性が高くなる。これはあくまで仮説であるが、 Level 66 N は放浪者が抱く違和感に比例し、不安定になるのではないかと推測されている。

具体的に例を挙げて説明しよう。自宅の洗面所を思い出して欲しい。これは身近な場所であり、基本的に毎日使用するため、どこに何があるのか、その空間のほとんどを把握しているはずだ。しかし、その洗面台下の収納に関してはどうだろうか。これは自宅内とはいえ、あまり目に触れる機会のない箇所である。さらに、その天板の裏ともなれば、覗き込むためにかなり無理な体勢をとらざるを得ず、配管の修理を自身で行った等の事情がなければ、目視することもないだろう。さて、下に掲載した写真は、実際に Level 66 N にて撮影された洗面台下の天板部分である。
 

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洗面台下の天板に設置されていたバスの降車ボタン。電源は当然確認できないが、不明な手段によって発光していた。

常識的には、民家の室内にバスの降車ボタンが設置されていることは考えにくく、明らかに異常であると判断できる。この他には「民家と民家の細い隙間」「棚の背面」「自分の背中」「カラーコーンの内側」等も、多くの放浪者にとって「これまで知覚した記憶のない箇所」に該当するだろう。また、これは視覚だけに限らない。味覚、聴覚、触覚に関しても同様の現象が起きることが報告されている。以下に放浪者から寄せられた証言を記す。

  • 通学路の駄菓子屋にて、まだ飲んだことのない銘柄のジュースを口にすると、おそらくポン酢を薄めたものと思わしき味がした。なお、香りは極めてカレーに近い。
  • 自宅のガラスケースの中に入った飾り人形について。持ち出そうとケース内へ手を入れたところ、見た目に異常はないが感触は明らかにウレタンマットであった。
  • 音楽準備室のよく知らない小型打楽器(報告者の証言から考えるに、おそらくボンゴ)に誤って衝突したところ、その音色はどう考えてもスマートフォンのフリック入力音であった。

また、これらの光景を目にした際、多くの放浪者は幻覚、幻聴等を疑うものの、次の事例でわかるとおり、物理的干渉が可能であり、おそらく単なる感覚異常ではない。

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実家の製氷機にぎっしり詰まっていた大小様々なダルマ。手に取った感触に果実のような弾力があったため噛ったところ、中身はリンゴに酷似していた。

さて、前述したような箇所を放浪者が知覚した際、多くの場合は非常に動揺し、主観や己を取り巻く空間の信頼性に深い疑念を覚える。この疑念と不審が深まるにつれ、当階層は変容する。具体的な変化としては、以下のものが確認されている。

  • 視野外での物体の移動
  • 視界のぼやけ、歪み
  • 聴覚情報の異常
  • 空間が不安定になったことによる、外れ落ちる確率の上昇

また、これは屋外、もしくは屋外が見える窓辺等の近くにいた場合でなければ観測しずらい変化ではあるが、太陽の日照運動が段階的に逆行することが確認されている。なお、この現象から Level 99 N での体験を想起するものが多いようだが、関連は不明である。3

この時の放浪者の心境に伴う空間の変遷を大まかに分けると、下記のようになる。なお、これは報告者の証言を平均化したものであり、すべての場合においてこのような変遷を辿るわけではないことに留意するように。特に、報告者の行動によっては第 1 期から一挙に第 4 期へ進行する可能性もある。


 

静穏

放浪者は Level 66 N に対し、なんの不審も抱いていない。

外観、匂い、環境音、いずれも現実と異なる点はほとんど見られない。(知覚した記憶がない箇所を除くが、この時点では放浪者に認識されていない)。

概要で述べたように、階層内は常に夜間である。

 

不審

放浪者は Level 66 N に軽い疑念を覚え、少なからず動揺している。

周囲がややボヤけて見え、音が遠退いて聞こえる。耳鳴りがしたという者もいる。この段階の放浪者は、空間に対する不信感というよりも、自分の主観や精神状態に対し疑念を感じている場合が多い。

はじめ、空はやや青みがかった黒色を呈しているが、西の地平から太陽の上縁が現れると、一転して、鮮やかな曙色を呈し、その後は徐々に薄い緋色へと移り変わる。放浪者が屋外にいた場合、この現象を目にしたことで次段階へ進む例が多い。

 

失望

放浪者は Level 66 N が現実世界でないことを確信して、深く失望している。

視界が白みはじめるほか、「目を離した間に物体が移動する」「音が実際の動きの数秒後に遅れて聞こえる」等の現象が発生する。

白昼である。空の真上には太陽が昇っているが、陽ざしの温かみは感じなかったと報告されている。

 

嫌悪

放浪者は Level 66 N に対し、激しい嫌悪感を覚えている。

周囲のものが乳白色のすりガラスを通したようにぼやけ、時に大きく歪んで見える。また、音と発生源の組み合わせがチグハグになる。具体的には 「回る洗濯機からパトカーのサイレンが聞こえる」「 料理を配膳する母親が人身事故のアナウンスを行う」等の現象が報告されている。

日が東の空へ沈むにつれ空は徐々に白みはじめ、やがて薄く赤みを帯びる。光は眩むほどにまぶしい。

 


なお、現在確認できる範囲では、大部分の放浪者が第 2 期 ~ 第 3 期で、残る者も第 4 期で他階層へ外れ落ちている。そのため、これ以降の空間がどのような状態に変化するのかは不明である。

以上に述べた脱出方法は、とりたてて複雑な手順ではない。しかし、注意点として、自分にとって「思い出深い、あるいは重要なもの」を対象として上記の手順を取ることは推奨されない。さらにいえば、当階層においては、そのような物品および人物4には極力、関わらないよう努めるべきである。詳しくは次項の「Level 66 N での注意点」にて解説する。必ず目を通し、よく理解した上で行動するように。

Level 66 N での注意点

前項で述べた通り、当階層からの脱出方法は、階層内の「これまで知覚した記憶のない箇所」を知覚することである。しかし、その対象として「未開封の遺書」「タイムカプセル」といった、自分にとって思い出深い、あるいは重要なものを対象とすることは避けた方が良い。このことによって肉体的な損傷を受けることはないものの、精神的に大きなダメージを受ける可能性が高いためだ。脱出の手段として意図的にこのような行為へ及ぶものこそ少ないものの、望郷の念や現実世界で果たされなかった事への未練からくる無思慮な行動が、上記のような事態へつながることは非常に多い。

例えば、ある放浪者が恋人の姿をした人物へ結婚のプロポーズをしたところ、笑顔のまま、数十秒ほどフリーズした。以降は挙動が明らかにおかしくなり、居間の四隅をぐるぐると回りながら、まだ存命中であるはずの父に対する弔辞を繰り返すようになったという。おそらく、プロポーズを受けた後の恋人の反応という、放浪者にとって未知の領域へ踏み込んでしまったためであろう。

また、注目すべき事実として、放浪者の大多数は階層移動後、 Level 66 N に現れた場所や物品、人物に対する記憶の一部が消えたと訴えている。5より正確に言えば、思い出そうとすると代わりに Level 66 N での記憶がよみがえり、元がどのような状態であったか全く想起できないようだ。

この問題に対する根本的な対策として、自分にとって重要な物品、場所、人物には極力、関わらないこと、また、可能であれば視界に入れないことが強く推奨される。しかし、先のような前例がありながらも、積極的にそのような対象との接触を試みる放浪者は多い。そこで、これに対する抑止として、以下に実際の事例をいくつか紹介する。

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小学校卒業時に友人と埋めたタイムカプセルに入っていた見覚えのない町の写真。

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親しくしていた女生徒から「放課後になったら読んで」と渡された封筒から出てきた、作りかけの人形の白黒写真。

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誕生日プレゼントに入っていた劣化したネジ。

物品

Level 66 N 内で拾得した物品を他階層へ持ち込んだ場合、その物品は放浪者が認識していた物品とはまったく異なる物に変容している。もしくは、これが本来の状態であるのかもしれない。これらは空き缶や剥離したタイルなどの、明らかな不用品である場合が殆どである。道具類である場合も大抵は致命的な破損が生じており、有用な物品である事は稀とされる。また、食物を持ち帰った場合、ブヨブヨとした白い塊に変化する。他階層でこれを食した放浪者によれば、酷く油っぽく、乳の腐ったような不快な風味がしたという。

入口と出口

階層への入り方

Level 66 N への到達方法は、特例として記さないこととする。このような措置に至った理由としては、当記事において再三、その危険性を述べているにも関わらず、Level 66 N へ意図的に到達しようとする放浪者があまりに多いためである。

また、意図的に Level 66 N へ到達しようと試みる放浪者の大部分は、当階層へ到達した経験が複数回あることも特筆すべき事である。6複数回に渡って当階層へ到達することは、放浪者の記憶、ひいては人格に深刻なダメージを与えかねない。もっとも、 Level 66 N で再現される現実世界に対し、望郷の念が起こらなくなるほど記憶が侵蝕された段階で、大抵の者は上記の不毛な試みを打ち切る。しかし、そのような状態になる前に自重すべきであることは言うまでもない。

階層からの出方

脱出手段の詳細については、前項の「階層の特性と脱出方法」にて詳細に解説しているため、そちらへ目を通すように。なお、到達先としては、比較的に現実世界と類似する階層に到達する場合が多いようだ。特に、以下の階層に到達する例が顕著である。

なお、他階層へ外れ落ちた直後、放浪者はしばし意識を失うようである。そのため、到達先の階層で意識を取り戻した際、しばらくの間、 Level 66 N での体験を夢であると誤認するものも少なくない。

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