Level 653 N の一区画
Level 653 N とは、バックルームにおける 653 N 番目の階層である。
概要
Level 653 N は、営業時間を終えた宿泊施設内のキッズスペースと、隣り合わせに広がる虚無の暗闇が縦方向に際限なく引き伸ばされたような空間である。階層到達時、必ず視界に入る滑り台やボールプールといった遊具の存在に加え、どこか閑散としていて不気味な雰囲気も相まって、階層内を探索しているうちに「子どもの頃に遊び場に来ていて、遊ぶのに夢中になっているうちに時間が経ち、ふと気がつくといつの間にか同伴していた両親がそばにおらず、自分一人だけ取り残されたような感覚」などと形容されるような孤独感を抱く放浪者も多い。
Level 653 N では、天井に取り付けられた空調設備が程よく機能しているため、気温・湿度の2点に関して言えば階層内は比較的過ごしやすい環境となっている。しかしその一方で、この階層は食料などの物資に乏しく脱出がやや困難であることから、これといった理由もなしにこの階層へ到達することは基本的に推奨されない。なお、空調設備のほか、天井にはLED照明やガラス製の天窓なども取り付けられているが、階層外は夜なのかこういった光源は一切機能しておらず、これらに代わって放浪者の視界を明るく保つのは向こうの方からシャッター越しに差し込んでくる蛍光灯の人工的な白色光のみである。ただし、キッズスペースから離れるにつれてこの光も少しずつ減っていくため、脱出を試みるならば視界の悪化を経験するのは避けられない。この対策として、懐中電灯などの光源を階層内へ持ち込むことが望ましい。
この階層へ移動した放浪者は、まず最初にキッズスペースと呼ばれる空間を訪れることになる。
キッズスペース
Level 653 N の青い横縞模様が入った壁側のブロッククッションに囲われた一区画、通称"キッズスペース"には常に一定の遊具が存在している。具体的に言えば、手前には滑り台やボールプールが、その奥には動物をかたどったブロッククッションや絵本棚などが配置されている。カラフルなプラスチックボールで満たされたボールプールは、見かけによらない深さを有しており、一度潜ると戻れなくなってしまう可能性を考慮すればそもそも入らないのが無難だろう。なお、滑り台はサイズが小さいことに目を瞑れば問題なく利用可能であるが、本棚に収められている絵本に関しては「まるで変体仮名と漢字をちぐはぐに組み合わせたよう」とも形容される不明な言語で書かれているため内容を楽しむ事、ましてや理解する事は困難を極める。
このキッズスペースを背にした時右手に広がっている空間とは金属製のシャッターで隔てられており、シャッターの向こう側には青い筐体の自販機が等間隔で数台配置されてあるのが確認できる。しかし、その空間とはかなりの間隔が開いているためシャッターの隙間から手を伸ばしても筐体には届かず、大抵の場合自販機を利用するには至らない。もし運良くシャッター越しに利用出来れば、取り出し口から現実世界由来の飲料を調達できるとされている。因みに、シャッターを隔てた先の廊下はいくつかの分岐を含んでいるが、奥へと続く通路には必ず「宴会場」「休憩処 卓球台・マッサージマシンあり〼」といった張り紙が傍らにされてある。しかしながら、そこからは利用者の声はおろか、ピンポン球が卓球台の上で跳ねる音やマッサージマシンの稼働音といった些細な物音さえ聞こえてくることはないと言う。
キッズスペースを背にすると、正面方向には広漠とした何もない空間とそこに居座る真っ暗闇が、部屋の片端を無理矢理引き伸ばしたかのように遥か彼方まで果てしなく広がっている。暗闇が覆い隠しているものは木目調パネルが敷き詰められたフローリングと真っ白な壁、やや低く設けられた天井のほかには何もなく、多くの遊具があるキッズスペースとは対照的に虚無な様相を呈している。
Level 653 N からの脱出方法についてはこれまでに多種多様なものが報告されてきたが、中でもとりわけ信頼性が高く確立された脱出方法は、暗闇に向かって進み続けるというものである。そのため、脱出を試みる際はキッズスペースを後にして、この暗闇へ向かう事が推奨されている。
暗闇へ向かう途中、左手に見える真っ白な壁は暗闇と接しつつどこまでも広がっており、壁には概ね10メートルおきにロッカールームと呼ばれる小規模な空間が洞穴のように設けられている。
ロッカールーム
ロッカールームの突き当たり
奥行き数メートルほどの空間である。狭いスペースであることに加え薄暗く、埃が宙に舞っていることから快適な空間であるとは言い難い。突き当たりの壁には5段のハシゴが立てかけられているが、前述した通りこの階層の天井は低いためこれは必要性に今一つ欠けており、また階層外へ持ち出そうにも自重を優に超える大きな重荷となるため、その場から動かす価値はないと言える。
暗がりでは、両側の壁に沿って収納ボックスがぎっしりと敷き詰められている。見たところどれも貴重品ロッカーのようだが、施錠機能がないどころか肝心の収納物を隠す蓋すら取り外されて存在していない。そのため、貴重品ロッカーにしては小学校の靴箱さながらにオープンな構造と化している。なお、ロッカーの中には時折ストラップ/キーホルダー付きの鍵やスマートフォンなどの端末機器、現実世界の硬貨が入った革製の長財布といった有用な物品が入っていることがあり、中でも鍵については「所持したまま過ごしていて、偶然到達した他の階層の乗り物・家屋に対して使用したところなぜか解錠する事ができた」という事例があるため、放浪者の間で非常に重宝されている。
キッズスペースのそばに併設されていることから施設の利用者が使用するための貴重品ロッカーであったと考えられるが、収納ボックスの長年にわたって放置されているようなその様相が、肝心の利用者は階層内のどこにも存在しない、という事を如実に物語っている。
自分の後方へ流れていくロッカールームを横目に見ながら、まっすぐ仄暗い廊下を歩いてゆく。キッズスペースを後にしてから数十メートルも歩けば、ますます視界が暗闇で覆われていき、直ぐに続行が難しくなってしまうだろう。
暗闇
大きな口を開けて放浪者を待ち構えている暗闇は、放浪者がその奥へと歩みを進めるごとに暗い色の絵の具を塗り重ねたかのように自身の色をより一層濃くしていくが、そうでなくとも最初から暗闇は深淵を思わせる暗灰色をしている。また、後述する実体を避けつつ暗闇の中を進めば進むほど空調設備の冷房が過剰になっていき、階層内の気温はうすら寒く感じるほどにまで変化する。
そうして視界が著しく悪化した時点で最終的に放浪者は探索の中断を余儀なくされる。一旦明かりのあるところまで戻ろうとして放浪者が後ろを振り返ると、そこにはテレビの明かりが浮かんでおり、いつのまにか自分がLevel 83 N に迷い込んでいる事に気づく。この階層移動は、放浪者が向こう側の壁に到達するよりも前に発生するため、放浪者が通路の終端に行き着くことは決してないとされる。というより、向こう側に壁があるのかどうかすらも現時点では検証不可能となっている。
実体
"首のない子供"
確認されている限り当階層に生息する唯一の実体であり、階層内には複数体存在している。外見はその名の通り首のない子供のようで、その肌は青白くうっすらと透けてみえる。また、その上から緑色や紫色に光る靄のようなものを全身に纏っているため実体はぼんやりと発光しており、暗闇の中を探索する際は実体が潜んでいないかよく観察していれば、ある程度は実体との接触を避ける事ができる。なお実体に光を当てようとする試みは、実体に届く一歩手前で光量が急激に減衰していき失敗に終わるため、実体を照らすことは叶わない。
実体は基本的に暗がりに身を潜めており、放浪者がある程度まで接近すると急にその姿を現すという習性があるようで、何も知らない放浪者を驚かす事が多々ある。そして、そのまま実体群は放浪者を無視し、キッズスペースに向かって一斉に駆けていく。もしその通り道の上に放浪者がいた場合でも、構わず放浪者を転ばせて前進を続けることが知られている。
実際、足元に向かってきた実体に転ばされた勢いでそのまま床に頭から外れ落ちたとの報告が複数件挙がっているが、いずれも比較的安全であるLevel 28 N やLevel 38 N 、Level 87 N といった階層に到達しているため、この点を加味しても実体はさほど脅威ではないとされている。しかし、足元に注意を向けておいて損はないだろう。
放浪者に邪魔をされなかったとしても、実体は目的地であろうキッズスペースに辿り着く寸前で付近の光を浴び、溶け込むように空中へ霧散してしまう。その様子は「成仏」と放浪者に捉えられる事も多く、この実体はカメラに写らない性質を持つことからもしばしば放浪者に「幽霊のよう」と形容されている。しかし、「成仏」のイメージとは真逆に実体は苦しそうな様子で、一部の放浪者には生き延びようと必死にもがき抗っているようにも見えたという。
備考
- 青い横縞模様の壁に貼られたプラカードでは「キッズ限定ボールプール(大人の方は、ご遠慮下さい)」と強調されている一方で、実際には大人子供関係なく施設を利用することが出来る。また、立て看板の注意書きに「ここでの飲食はご遠慮ください」と書かれている点についても同様である。
- Level 653 N は長期滞在者に一定の精神影響を及ぼす可能性がある。これは成人済みの放浪者に多く起こるようで、その症状は、この階層で過ごした記憶が現在だけでなく過去の思い出の中にも気づかぬ間に挿入されていく、という内容である。これは「幼少期に空いた、いくつかの小さな空白が埋まっていくような感覚」と表現される事があり、この精神影響の存在がこの階層のキッズスペースを妙に懐かしく感じさせる原因であるとも考えられている。徐々に進行していく症状に強烈な違和感を覚えて激しい拒絶反応を見せる者もいれば、すんなりと受け入れてありもしない記憶にしばし思いを馳せる者もいるという。
入口と出口
階層への入り方
- Level 400 N の屋外園庭で動物を模したようなスプリング遊具に跨がって遊んでいると、いつしか Level 653 N に到達して、キッズスペース内に転がっているキリンをかたどったブロッククッションに跨がっている。
- Level 403 N で "ホテル支配人" というクレジット表記がなされた掲示物を見つけて、その付近にある通路を通ると突然に自身の後方でシャッターが下り、 Level 653 N のキッズスペースに迷い込んでしまった事を知る。
- Level 500 N で子供から遊びに誘われた際、その誘いに乗ると Level 653 N へ到達する事がある。
階層からの出方
- Level 653 N でキッズスペースを離れて暗闇に向かい、視界の悪化で続行不可能になるまで進み続けてそこで振り返ると、いつの間にか Level 83 N のテレビの正面で立ち尽くしている。なおその際、 Level 83 N に到達せずに Level 240 N の路上に到達したという報告も少数ながら確認されている1。
- Level 653 N で実体に転ばされてそのまま床をすり抜け、 Level 28 N や Level 38 N 、 Level 87 N などの比較的安全な階層へ到達する事がある。
- Level 653 N でフェンスの途切れ目を覆い隠すように存在しているカーテンを見つけてそれを捲ったところ、その先が例外的に Level 199 N の細長い廊下や Level 0.1 N の開けた場所へ通じていたという報告例が存在する。
- Level 653 N のキッズスペースでボールプールに潜っていったところ、段々と呼吸が困難になっていき、息をしようと浮上すると Level 30 N の部屋の中でプラスチックボールの山に埋もれながら中から顔を出していたという報告例が存在する。
- Level 653 N のキッズスペース付近をしばらくうろついていると、突然シャッターが上がり、天井照明が眩しく光ったかと思うといつの間にか階層から脱出している。主な到達先は Level 105 N の大理石の通路が交差している地点である。

