Level 564 N は、バックルームにおける 564 N 番目の階層である。
概要
Level 564 N の都市建築物と、それを覆う霧
Level 564 N は、蒼白な霧の深みに沈むようにして高層ビルなどの断片的な都市建築物が点在し、それらを橋梁のように長大な交通施設が繋いでいる空間である。階層は水平および垂直方向にどこまでも茫漠として広大であり、まばらな建築物の他には何も存在しない空間の広がり──虚空に満たされている。
Level 564 N の空間そのものに地表面は確認されておらず、下方に広がるのは霧に覆い隠された深淵の気配のみである。建築物はちぐはぐな高度で浮遊するかのように点在しているが、見下ろせばその基礎構造は霧を突き抜けて奥深くへと消えていき、これを固定する何らかの支持体の存在を想像させる。
霧の虚空は、上方に存在する不明な光源によって照らされている。太陽のような特別に明るい点は確認されず、概ね天の全面から淡い光が降り注いでいるかのようである。高さのある建築物を上れば上るほど周囲は明るくなってゆき、下れば下るほど、周囲は少しずつ暗くなってゆく。
立ち込める霧によって衣服や体表には水滴が張り付き、肌寒い気温と併せて早朝の山地にも近い気候環境である。体温が下がりやすいため、早期の脱出が望ましい。
建築物
Level 564 N の全体的な印象は、底なしの虚空を覆い尽くしてもなお虚ろな、霧の茫漠さによるものである。霧は蒼白な闇として、迷い込んだ者の方向感覚を失調させ、空間の奥行きを包み隠す。あたかも海中を漂泊するかのように佇む都市建築物の存在によってのみ、霧に隠された果てしない空間の広がりは顕在する。
霧に消えてゆく巨大な橋梁
Level 564 N に点在する都市建築物は、構造上の特徴から二種に大別することが出来る。
第一には、雑居ビルや高層ビル、駅ビル、ホテル、立体駐車場のような、高層建築物である。中には最上階および最下階を発見することが出来ないものも多く、霧の向こう側で高さ方向にどこまでも聳え立っているかのように思われる。集合住宅など居住施設の発見例も多い一方で、戸建て住宅のような中規模以下の建築物は発見されない。
第二の建築物として、橋梁や高架道路、鉄道線路といった、長大な交通施設が高層建築物の間を縫うようにして走り、孤立して見える建築物群の多くを辛うじて接続させている。水平方向の移動においてはこの交通施設を頼ることになるが、道路や線路上に車両の類が存在しないため、建築物の配置によっては徒歩による長距離の移動を余儀なくされる。
Level 564 N において足場となるのは、虚空に立ち並ぶこれらの建築物のみである。拠って立つ基礎すら明らかでない建築物群はしかし微動だにすることがなく、窓や欄干の先には常に広大な落差の気配が覗いている。建築物の輪郭に沿って微かな霧の流れを見て取ることは出来るが、建築物から足を踏み外すような突風どころか、風と呼べるほどの風すら吹くことがない凪の静寂に、建築物は包まれている。
指針
Level 564 N において行動指針となるのは、階層からの脱出経路となり得る建築物を目指すことである。そのような既知の建築物と、その脱出手順を詳述する。ただし、以下が完全なリストではあり得ないことに留意すること。
- 鉄道線路
- 鉄道線路は稀に、宙に浮いたチューブ状のコンクリートトンネルに繋がっていることがある。これに入って進むと、霧は次第に薄くなってゆき、いつしか Level 1 N のプラットホームへと辿りつく。
- 歩道橋
- 極端に横幅が細く、しかしどこまでも続く歩道橋のような構造を発見することがある。どうにか経路を発見して歩道橋へ降り、これを進んでゆくと、それまでの景色からは考えられないほどの密度で、左右に高層建築物が列を為して立ち並ぶようになる1。さらに進めば霧が濃さを増してゆき、真っ白な視界に平衡感覚を失ってよろめいたとき、唐突に Level 840 N へと周囲の景色が一変する。
- ロープウェイ
- 交通施設の中でも特異なものとして、稼働状態でゆるやかにどこまでも下ってゆくロープウェイの存在が報告されている。これらの報告はいずれも、高層建築物の一室がロープウェイの駅になっていたというものである。駅に到着したゴンドラの扉を開けて乗り込むと、建築物を時折かすめながら、いつまでも際限なく霧の中を下ってゆく。駅への到着を諦めてゴンドラ内で眠りに就くと、次に目を覚ましたとき、ゴンドラは Level 880 N のトンネル内に、客車部分のみで放置されたように停車している。
ロープウェイ状の構造
並び立つ特徴的な高層建築物
建築物の内部
階層からの出口となりやすい交通施設は、それぞれに全く異なる高度にて存在している。そのため、Level 564 N の空間を垂直移動するにあたって、高層建築物の内部を利用することになるはずである。
高層駅舎のような都市建築物の待合空間
都市建築物の屋内は、屋外と同様に深い霧が立ち込めている。あらゆる床や壁が濡れ、煙る照明の光は霧の細かな粒子をぼんやりと浮かび上がらせる。腰を落ち着けられるような椅子や段差も例外なく水滴に覆われており、体を冷やすか、あるいは休息を諦めるかの選択を迫られる。
建築物の内外を問わず、Level 564 N には物品がほとんど存在しない。仮に濡れた身体を拭けるような布を見つけたとしても、それらは例外なく、既に湿りきっている。建築物の屋内は殺風景で生活感のない様子であり、それはあたかも都市の骨格標本に迷い込んでしまったかのような光景である。
不明な経路によって、建築物には電気・水道・ガスのインフラが供給されている。基本的に有用だが、あらゆる場所が霧に濡れている性質から、漏電が重大な脅威となる。コンセントを見つけたとしても端末の充電等は避けるべきであり、インフラの利用は水道からの水分補給に可能な限り留めるべきである。
Level 564 N に存在する建築物のほとんどはコンクリートで構成されている。虚空に包囲された屋外と違い、屋内では音がよく反響する。かえって不可解なほど静まり返った屋内に自身の行動音だけが過剰なほど響き渡るが、これに恐怖を覚える放浪者も、安らぎを覚える放浪者も存在する。
建築物の接続
画像右側の階段は雑居ビルの非常階段に接続していた
都市から引き剝がされたかのように Level 564 N の深い霧に沈む高層建築物群の多くは、その間を縫って伸びる長大な交通施設によって接続されている。典型的にそれは橋梁であり、高架道路であり、鉄道線路である。この交通施設を経由することで、高層建築物から他の高層建築物へと渡ることが可能である。より稀ではあるが、異なる高層建築物が相互に直接接続している例も報告されている。仮に空間の全体を俯瞰して見ることができれば、建築物の配置は非常に目の荒い網目状の概形をしているものと思われる。
建築物間の接続は、そのものがめり込むように重なり合っていたり、両構造物の折衷的な構造2が存在したりすることによるものである。このような建築物間は、比較的安全に移動することができる。しかし、隣接する建築物との間に 1-2 メートルほどの、またはそれ以上の距離があり、橋として使用できる構造や物品さえ周囲に存在しないような場合もある。このような場所を先に進むには跳び移ることで移動するほかなく、虚空に落下するリスクを考慮すると、引き返して別の道を探すか、その建築物内で出口を探した方が懸命である。
補項
見渡す限りを壁のように立ち塞ぐ、巨大な建築物が報告されている。報告者によると、巨大建築物に並走する高架道路をどれだけ進んでも、その終端が見えることはなかったという。しかし、場所によっては最上部を見上げるように確認することができ、さらに上空を交差するように越えてゆく橋梁がいくつか目撃されている。これらに接続する経路が一切発見されなかったため、その内部は未探索である。
壁のように立ちはだかる巨大施設
入口と出口
階層への入り方
- Level 1 N において、霧がかった空気の流れてくる線路へと侵入して進み、やがてトンネルを抜けると Level 564 N の鉄道線路に辿りつく。
- Level 570 N 等の高層建築物において、周囲が少しずつ濃い霧に包まれてゆき、建築物ごと Level 564 N に移動することがある。
- Level 689 N の殺風景な部屋から、Level 564 N の上下反転した高層建築物の一室に移動することがある3。
階層からの出方
- 鉄道線路が稀に、宙に浮いたチューブ状のコンクリートトンネルに繋がっていることがある。これに入って進むと、Level 1 N のホームに繋がっている。
- 極端に横幅の細い歩道橋のような構造を進んでゆくと霧が次第に濃さを増し、真っ白な視界に平衡感覚を失ってよろめいたとき、唐突に Level 840 N へと周囲の景色が一変する。
- 高層建築物の一室がロープウェイの駅になっていることがある。ロープウェイのゴンドラ内で眠りに就くと、次に目を覚ましたとき、ゴンドラは Level 880 N のトンネル内に移動している。
霧に消える高層ビルの根元

