クレジット
Level 35.6 N の空虚なオフィス。
Level 35.6 N とは、バックルームにおける 35.6 N 番目の階層であり、Level 35 N の副次階層である。
概要
Level 35.6 N は、オフィスビルの内部を水平方向に拡張し、壁により区分けされた個々の部屋を無数のドアで繋ぎ合わせたような空間である。その構造は非ユークリッド的で、通ってきたドアの向こうが先ほどと違う景色に変わっていることもしばしばある。建物の外に面した窓を見つけて「階層の端にたどり着いた」と喜んでいたところ、目を離した隙に窓の向こうがオフィスの室内とつながってしまっていたという報告もあることから、建物の広さは今も拡張を続けているとされる1。また、見渡す限り壁も柱も立っていない無意味な大広間もあれば、何十何百もの柱が部屋の中央にかたまり密林のごとくひしめき合っている小部屋もあるなど、空間構造としては合理性・耐震性に欠いているように見える。
Level 35.6 N では、気温は25℃前後・湿度は30〜40%と、ともに空調設備によって常時過ごしやすい程度に保たれている。しかし空気はやや埃っぽく、状況に応じ口にハンカチをあてて呼吸することが求められる。外窓の向こうは基本的に暗闇が広がっているのみだが、時折数秒間のみ、付近に雷が落ちたかのような眩い白色光で包まれることがある。ちょうどそのタイミングで窓を見ていた場合、突然の発光に目を傷める恐れがあるため窓の外を直視することは極力避けるべきである。断続的に明滅をくり返すそのさまは、現実世界の昼夜サイクルからの剥離を暗に示している。
Level 35.6 N はオフィスビルの内部を基礎としているにも関わらず、そのほとんどが改修工事の最中であるかの如く何もない空間ばかりである点は特筆すべきであろう。後述するパソコン室のような、事務用品のそろった部屋が見られるのは逆にまれであり、ほとんどの空間は冒頭画像のようにありったけの空虚で満たされている。こうした虚ろな空間では、耳を澄ませるとコピー機が延々と用紙を吐き出しているような稼働音や、風が戸を叩くような音が僅かながら聞こえることがある。中には、壁の向こうからタイピング音が聞こえてくることもあるものの、そこで何かしらの実体が見つかることはない。
Level 35.6 N にさしたる脅威は存在しない。しかし得られる物資も限られており、後述するパソコン室で発生する怪奇現象は放浪者の精神に悪影響を及ぼす恐れもあるため、特段の事情がなければ早期の脱出を試みるべきである。
オフィス
Level 35.6 N でよく見られる構造。その広さはまちまちである。天井に取り付けられた照明はおおむね等しい間隔をあけ、空間全体を明るく照らせるよう隅々まで配置されているものの、その一部は灯っておらず、薄暗くなっている区画が頻繁にみられる。万が一を考えて、このような薄暗い区画には近寄らない方がよいだろう。
天井やカーペットの色は青系の落ち着いたトーンで統一されており、「見ていると気分が落ち着く」という放浪者も一定数いるようである。また、壁紙は一貫してクリーム色だが、前述した天井照明の灯っていない区画では天井やカーペットの青と混ざり合い、まるで闇と一体化しているかのように見える。
壁沿いでは、"セントラルヒーティング"と呼ばれる暖房器具のラジエーター(放熱器)にあたる設備が各窓の下部に設置されてある。起動後、側面についているバルブを適切な方向へとひねることで温度調節が可能だが、空調設備のはたらきによりそれをせずとも快適に過ごせるため、多くの場合これらは特段の有用性を持たない。
オフィスには一般的な出入り口が存在しない代わりに、非常口が至る所に点在している。誘導灯の緑色のサインをたよりに非常口を見つけ、扉を開けると、その先は廊下につながっている。
廊下
薄暗い廊下。
Level 35.6 N の廊下はオフィスと同様に仄暗く、時折鳴り響く電話のコール音が放浪者の不安を掻き立てる。両脇には木製の扉が整然と設置されており、これをくぐり抜けるとオフィスに戻ることが出来る。この扉は廊下側からは一瞥して普通に見えるが、オフィス側から見ると誘導灯が灯っているのも相まって非常口に見える。
そんな扉の周りには決まってキャスター付きの黒い椅子が無造作に設置されている。これは、ドアを立ち塞ぐようにして設置されていることも多々ある。また、椅子の上に置かれた状態で、飲みかけの缶ビールや小皿に載ったピーナッツなど、この階層において稀少な物品が見つかる場合がある。廊下に出た際は一度これらを探してみても良いだろう。
パソコン室
パソコン室の一例。
Level 35.6 N で何度も廊下を行き来し、オフィスへの出入りをくり返していると、そのうちに扉の先がパソコンの大量に並んだような空間につながることがある。いくつかあるテーブルの上にはそれぞれパソコンが背中合わせにずらりと並べられており、その手前には接続済みのキーボードが置かれている。
この空間に充満する空気は特に埃っぽく、キーボードやパソコン本体にとりつけられたカバーはいずれも埃をかぶっている。パソコンの機種はおおむね一致しており、いくつかのパソコンは「ウイルスが検出されました」というポップアップを表示したまま機能しなくなっている。
パソコン室に関して、いくつかの怪奇現象の発生が報告されている。以下にその例を述べる。
怪奇現象の報告例:
- 大量の小さい何かがパソコン本体の中で飛び交っていて、ぶつかるたびに基盤が膨らみ画面がいびつに歪んでいく
- カバーをめくろうとすると、突発的にパソコンの中から何かがもぞもぞと蠢いているような轟音が鳴り響いた
- カバーを勢いよくはぎ取ろうとした途端、ディスプレイに映っていた澄み渡る青空と草原2が突如として夥しい数の羽虫の黒いシルエットによって覆い尽くされた。これに伴ってパソコン自体が激しく振動し、カバーがカサカサと音を立てた
- パソコン本体のファンの奥からけたたましい羽音と、何かがぶつかり合うような音が聞こえる気がして耳を近づけてみた。しばらくすると、ファンのすき間から細切れになった虫の翅あしやはねが飛び出してきた。よく観察したところ、それらにはドロドロに溶けた虫の体液らしきものが纏わりついていた
- 足元のパソコン本体の外装が起動してもいないのに熱くなっており、なぜだろうと思っていると、蓋のネジが緩んでいることに気付いたのでこじ開けてみた。すると中には虫の卵らしきものがびっしりと植え付けられていた。今思えば、卵によって排気が阻害されていたが故に本体は熱くなっていたのだろう
- ファンのスイッチを入れると、起動と同時に何かがファンに切り裂かれて潰されるような、不快な音がした。ファンの表面に卵か何かが植え付けられていたのかもしれない
いずれの報告も虫に関するものであり、ディスプレイあるいはパソコン本体の中に何らかの虫が伏在している可能性が度々指摘されている。しかし未だに確証がない点も鑑み、この階層の実体信頼性は暫定的に"不明"としている。
こうした怪奇現象はパソコンからパソコンへと連鎖していく。それに伴い、空間自体も不安定さを増していく。近くのパソコンが突然羽音を発したかと思えば、向こうからも同じ羽音が聞こえてきて、重なり合った羽音は止むことなくあちこちから聞こえてくるようになる。羽音は上から上からどんどん被さっていき、不気味なコーラスを奏ではじめる。放浪者の多くはこうした現象に立ち会った際、恐怖を覚える傾向にある。
そうして怪奇現象を起こすパソコンの数が全体の半数を超えた時、放浪者は意図せず床に向かってすり抜けるように外れ落ち、他階層へ移動することになる。最終的には全てのパソコンが「ウイルスに感染した」状態に陥るものと見られているが、その段階まで階層内に滞在することは特性上難しいため、その時何が起きるのかは依然として不明なままである。
入口と出口
階層への入り方
- Level 35 N のオフィスで、ドアを通り抜けながら移動をくり返していると、明らかに事務用品の少ない部屋に遭遇することがある。あなたはいつの間にか Level 35.6 N の空虚なオフィスに迷い込んでいる。
- Level 82 N の夜の街で、鍵のかかっていないオフィスビルの様相を呈する建物に侵入すると、正面玄関から入ったにも関わらず、エントランスホールといった一般的な構造をすっ飛ばして Level 35.6 N のオフィスに到達することがある。
- Level 433 N の薄暗いカプセルホテルの客室で、誘導灯の明かりに従って分岐する通路をしばらく歩いていると、ふと一つの非常口の前にたどり着く。扉を開けた先は Level 35.6 N の廊下に接続されている。
階層からの出方
- Level 35.6 N の階層内で睡眠をとると、目が覚めた頃には Level 35 N に移動している。
- Level 35.6 N の薄暗い廊下を歩き回っていると、稀にピンク色の眩いネオンライトで縁どられた、異様な扉を見つける事がある。このような扉の先は例外なく Level 218 N へ繋がっている。
- Level 35.6 N のパソコン室で床に向かって外れ落ちると、 Level 19 N や Level 270 N 、 Level 899 N 等の階層へ到達する。

