Level 34.2 N で撮影された画像。
Level 34.2 N とは、バックルームにおける 34.2 N 番目の階層であり、Level 34 N の副次階層である。
概要
Level 34.2 N は、緩やかな斜面に立ち並ぶ閑静な住宅街が青みを帯びた街灯に照らされながら無限に続く階層である。階層一帯が家屋で構成されているため商業施設などはほとんど見られず、日の昇らない街にぽつぽつと灯る家々の照明によって、一帯は常に夜間のような様相を呈している。
階層内では極度に青みがかった光を放つ街頭が夜道を照らし出しており、夜間故の暗さの中であっても行動に支障が出ることはない。階層を埋め尽くす家屋群が窓から放つ光も同様にして青みを帯びているが、こうした光が家々から漏れ出ていることはむしろ少なく、家灯りはほとんど消されてしまっていることが多い。また、家屋の扉や窓は全て施錠されており、不用心にも盗人を招き入れてしまう恐れはないようだ。
階層を構成する建物はそのほとんど全てが一軒家であり、大型のマンションはおろかアパートすら滅多にみかけることはない。高台の家屋の切れ目から映る遠方に目をやると煌々とそびえるビル群を拝むこともあるが、そちらの方に足を運んでも斜面の登り降りを繰り返す中で見失ってしまい、遂に到達は叶わない。どこまで行っても家々から抜け出すことはできず、総人口に占める割合の多い姓からランキング順に当てはめていったような、どこにでも居を構えていそうな苗字を表札に掲げた没個性的な家屋ばかりが立ち並ぶ住宅街を歩む事となる。来た道が変わってしまうといった空間の不安定さは持ち合わせないが、来た道も進むべき道も容易く記憶から零れ落ちてしまう程に取り留めのない街並みが続いており、非常に道に迷いやすいことは言うに及ばない。
住宅街の画像。
家々にそっと耳を澄ましても聞こえてくるのはカチャカチャと食器を動かしているような音や判然としないテレビの音くらいのものであり、ほとんどの家屋は時が止まってしまったかのように寝静まっている。断続的に換気扇の回る音の聞こえる家屋が夕食の準備をしているかのような香りを漂わせているといった機会は、なおのこと稀である。それ故に、訪問者の中には『宛もなく深夜徘徊に身を投じている』かのような、或いは、『終電で帰宅した時の家路を辿っている』かのような心象を抱く者も少なくはない。
階層内の気温はおよそ24℃前後で推移しており、特別寒すぎるということもなければ暑さに身を茹だるようなこともない。上空を流れゆく雲は、その場を微動だにしない下弦の月や家屋の光害を免れた仄明るい星々を素早く吞み込んでは吐き出してを繰り返している。一方で、地上ではうっすらと湿ったそよ風が家屋を縫うようにして吹き付けており、家々の庭木と電線と、前髪とを揺らす涼しげな風を受ければ、その身に確かな心地よさを感じるだろう。
交差点
交差点を撮影した画像。
階層内は傾斜が多いことや家屋が所狭しと立ち並んでいることもあってか、信号機が設置されているような交差点に遭遇することは稀である。しかしながら、道幅が少し広くなっている場所では信号機が姿を見せることがある。こうした交差点の信号機はどの向きのものも全て"赤信号"を灯しており、これが青信号へと変化したというケースは確認されていない。この信号機を無視して信号機の向こう側へ進んでいくと、歩みを進めるごとに進行方向の空が少しづつ明るくなってゆき、階層の空間自体も著しく不安定となってゆく。眼前の空が赤く焼けたと視認するかしないかの内に外れ落ち、永い夜は開けてしまう。外れ落ちた先の空間はあまり穏やかなものではないので、信号機にはむやみに近づかず、そのまま夜に浸っているべきだろう。
物品
自動販売機
自動販売機の画像。
階層内では時折、住宅地の中でポツンと設置された自動販売機を見つけることがある。煌々と照らされたダミーボトルは街中において過剰なまでに目立っており、発見は容易である。
陳列された商品は売り切れてさえなければ購入が可能であり、摂取についても問題なく可能である。商品のバリエーションについては少し割安な以外に特筆すべき点もないが、階層内の自動販売機はいずれも"上から2段目の最も右端"の位置にのみ、液体の温度を示していると思われる表示に「あわ〜い」と記されたアイスウォーターの缶が置かれている。この商品の価格は決まって「¥0」であり、ボタンを押せば入手が可能である。なお、この商品は1箇所の自動販売機につき1本しか在庫が無いようであり、これを飲み干して別の自動販売機に辿り着くまでは在庫が復活することはない。
アイスウォーター
自動販売機から無料で入手可能な飲料。ボタンを押して取り出し口に落下の重みを感じ、結露で濡れぼそった缶を取り出したならばすぐにでもプルタブを開けたいところではあるが、自動販売機の前で即座に口を付けるような真似は控えるべきである。
小気味の良い音を鳴らして封を開け、缶のフチを唇に近づけた瞬間、鼻先を抜けるのはミントとマスカットとをブレンドしたような仄かな香りである。缶を持つ手をくいっと持ち上げ、渇きのままに内容物を流し込んだなら、淡い炭酸が舌先をパチパチと刺激し、期待に違わぬさっぱりとした甘みが口腔を満たしていく。滑らかな喉越しによってスルスルと食道へ、胃へと収められ、更なる一杯を求め口元へと運び続ければ、甘露はたちまちに空となってしまう。
飲料は歩き疲れた身体にスっと浸透し、疲労感の軽減を感じると共に、抗いがたい眠気による強い脱力感に見舞われることとなる。そのため、あらかじめ住宅街の中にみられる公園のベンチにでも座って、いつでも仮眠をとれるよう心しておくとよいだろう。ここで見る夢は、「瞳を閉じる前とほとんど変わらない住宅街をぼんやりと眺めている」といったものであり、夢の中であっても青い光景が途切れることはない。
重い瞼を再び開くと、視界に映るのはそれまでと同じ青みがかった街の夜景である。それまでの放浪の疲れは固いベンチで寝たとは思えないほどに軽くなっているのを肌で実感できるが、飲料によって生じた眠気は目をこすれども拭い去ることはできない。やがて、口直しにとふらついた足取りで次の1本を求めて自動販売機を探し歩き、先ほどの多幸感を求め缶を空にしては再び眠りに着く。常夜の街においてはどれだけの間眠りについていたかなどは問題ではなく、寝て起きた後のことなどはもはや考慮に値しない。
そんな惰眠と覚醒とを繰り返しているうちに、遂には明晰夢のように自由に動き回ることができることに気付く。やがては夢の中ですらアイスウォーターを口にするようになり、入れ子状態になって夢を見ることもしばしばである。青い街灯に照らされた街の均一性は夢の中であっても健在であり、自動販売機の灯りに羽虫の如く引き寄せられては空き缶を増やし、より深い眠りに着いたと思いきや、ガクンと体が震えると共に突如として覚醒する。しまいには自分が今、起きているのか、或いは眠っているのかの区別さえつかなくなってしまう。
なお、夢の中で行った行為は覚醒後の現実にも反映され、たばこを吸ったのであれば覚醒後にもその数だけ消費されており、階層を出たのであればそのまま移動が発生するなど、夢と現実とを隔てる判断材料は乏しい。唯一、夢の中であるという明確な証拠としては、「両耳に有線/無線を問わないイヤホンを付け、何らかの音楽を聴いている」という状況に身に覚えがないのにも関わらずそれを行っている場合、それが夢であるという手がかりとなる1。スマートフォンには落とした覚えのない不明な楽曲───Lo-fiに代表されたいわゆる"チルい"BGMがリピートされている旨が映し出されており、これを停止しようとしても鳴りやまず、イヤホンを耳から外すことも叶わなければ、それはきっと夢の中である。
夢の中で撮影されたとされるスクリーンショット。
こうした一種の夢中毒のような症状を引き起こす可能性はあるものの、アイスウォーターを摂取してさえいれば階層内で飢えることはないようであり、長期の滞在においては安定した補給源となり得る。なお、こうした現象は Level 34.2 N の外に飲料を持ち出しても発生しない。リスクがあるのは当然であるが、飲み食いに事欠く恐れから逃避したいのであればプルタブを引いてみるのも悪くないだろう。
備考
- 階層内を彷徨っていると、稀に現実世界で自分が最後に過ごしていた自宅と完全に様相が一致した住宅と遭遇することがある。これは、かつての住居がアパートやマンションであっても例外ではなく、住宅街を突き進んでいると深く記憶にこびりついた我が家を目の当たりにすることとなる。自宅は他の家屋と同様にして照明は落とされているほか、自身の家が集合住宅であったならば他のすべてのドアもやはり施錠されている。当然、自宅は周辺を全く身に覚えのない家屋に囲われており、その様相は記憶と大きく異なるため違和感を感じるものの、自宅の周囲に置かれている自転車は防犯登録番号に至るまで確かに自分のものと一致しており、表札は自分の苗字と同じ名前が刻まれており、未だ自宅の鍵を保有し続けているのならば鍵穴に差し込んで回すことまで可能である。ただし、実際にはガチャリという馴染み深い音と感触が手に残るだけで解錠されるわけではなく、このドアが開くことはない。数多の寄り道を経て未だ、家主の帰宅が受け入れられることはない。
- 自宅の郵便受けには、手紙や回覧板、置き配といった形式で一つだけ郵便物が送り届けられている。宛名は記載されておらず、内容物は宛先の誤りを疑ってしまうような不要かつ生存に寄与しないものがほとんど2であるが、共通して一枚の紙切れが紛れ込んでいる。階層内の暗さ故に文面は判読しづらいが、青い光に照らしてみると手書きで「おかえり」という文字が書かれているのがわかる。
入口と出口
階層への入り方
- Level 34 N で遠景に見える青い街灯の照らすエリアの方へ向かって進んで行くと、 Level 34.2 N に到達する。
- Level 365 N に置かれたパソコンの画面がブルースクリーンになっている場合、これに外れ落ちると Level 34.2 N に到達する。
- Level 31 N で黄色地の看板に「2番出口」という文字列が記載された案内表示に従って進んで行くと、 Level 34.2 N に到達する。
階層からの出方
- Level 34.2 N の交差点で赤信号の先へ向かっていくと、 Level 42 N や Level 113 N といったやや危険度の高い階層へと外れ落ちる。
- Level 34.2 N の公園で桜の花びらが絨毯のように集まっている地点を踏み抜くと、そのまま外れ落ちて Level 77.3 N へ到達する。
- Level 34.2 N で歩き疲れて自宅の壁に寄りかかるように眠りに着いた際、 目覚めた時には既に Level 92 N へと到達していたという報告が存在する。
- Level 34.2 N でコンビニエンスストアが見える方へ向かっていくと、周囲の青みが失われていくと共に Level 711 N へ到達する。
Level 34.2 N 内で撮影されたコンビニ

