Level 120 N
Level 120 N とは、バックルームにおける 120 N 番目の階層である。
概要
Level 120 N は、内装工事中の建築物に類似した屋内空間が無限に連続する階層である。
階層内には、集合住宅の廊下、事務所、商業施設、病院、学校などを思わせる区画が混在している。区画同士の繋がりに規則性はなく、住宅の玄関扉を開けると事務所の給湯室に出る、病院の待合室を曲がると学校の階段へ続く、といった接続が見られる。扉や曲がり角を一つ越えただけで、区画の用途が変わることも珍しくない。
気温は18~26℃ほどで、場所によって差がある。湿度は高く、塗料や接着剤、湿ったコンクリートに似た臭いが絶えず漂っている。ときおり換気設備の稼働音が聞こえるものの、これまでに見つかった換気口の大半は、石膏ボードや養生シートで塞がれている。現在まで、臭気による明確な体調不良は報告されていない。
天井には仮設照明が一定間隔で設置されている。照度は低いものの、探索が困難になるほど暗い区域は少ない。窓に相当する箇所は半透明の養生シートで覆われており、その向こう側から白色の光が差し込んでいる。シートを取り除いた場合、その奥には屋外ではなく、未塗装のコンクリート壁が存在することが多い。
階層内には、「塗装中」「床仕上げ施工中」「乾燥まで24時間」「触れないでください」などと書かれた貼り紙や立て看板が至る所にある。施工会社名や建物名は場所ごとに異なり、現実世界に存在しない住所や、発見時点より後の日付が書かれていることもある。
未乾燥面
比較的広い施工区域。周囲に作業員や実体は確認されなかった
Level 120 N を構成する壁、床、天井、扉、窓枠の多くは、塗装や左官作業を終えたばかりのように濡れ、鈍い光沢を帯びている。これらは総称して「未乾燥面」と呼ばれる。表面を覆う物質は塗料、漆喰、モルタル、床用ワックスなどに似るが、採取する場所によって性質が異なる。階層外へ持ち出した試料は数分で崩れ、無色の粉末か少量の水に変わる。
人間や物品が未乾燥面に触れると、接触箇所の輪郭を写した跡が残る。跡は時間とともに壁や床の内部へ広がり、やがて新たな空間を形作る。指先の痕跡は細長い穴や狭い通路へ変化する。手形ほどの大きさであれば、人間が進入できる程度の窪みへ成長することもある。足跡は段差や階段を、台車や旅行鞄の車輪跡は直線状の廊下を形成する傾向がある。
形成される空間は、接触時間が長く、加わった圧力や面積が大きいほど広くなる傾向がある。壁にもたれ掛かったり床に横たわったりした場合、未乾燥面が急速に後退し、接触者を内部へ取り込むことがある。接触痕の拡張速度には大きなばらつきがあり、数分で人間が通行できるほど広がるものもあれば、数日経ってもほとんど変化しないものもある。新たに形成された通路の壁や床も未乾燥面である。内部で接触を繰り返すと、そこからさらに通路が伸び、樹枝状に分岐していく。
古い接触痕から生じた空間では、衣類や工具、照明器具などが、壁や床に半ば埋もれた状態で見つかることがある。これらは、過去に進入した放浪者の持ち物とみられている。埋没した物品を無理に引き抜くと周囲の表面が軟化し、新たな接触痕が形成される。そのため、これらを無理に回収すべきではない。
養生区域
破損した養生シート。破損箇所の奥に存在する空間へ進入してはならない
青色または緑色の養生シートが床に敷かれた区域では、未乾燥面との接触を避けながら移動できる。養生シートやマスキングテープ、仮設手摺そのものに異常性はなく、これらが設置された区域は比較的安全な経路として利用されている。
しかし、養生区域が常に同じ場所に存在するとは限らない。遠方から粘着テープを剥がすような音が聞こえた後、仮設照明が数秒間消灯することがある。照明が再点灯すると、養生シートの配置が変わっていることがある。配置が変化する瞬間を目撃した者はおらず、養生作業を行う存在も確認されていない。養生シートが破損している場合、その下には未乾燥面が露出している。破損箇所を踏み抜いて転倒したり、露出した未乾燥面に足を取り込まれたりした事例もある。移動前には、シートが破損していないか確認すること。
養生区域には稀に、脚立や折り畳み椅子、空の飲料容器などが置かれた休憩所のような区画が現れる。食料や飲料水は残されておらず、長期滞在には適さない。
乾燥
未乾燥面や接触痕は、ときおり前触れなく乾き始める。最初に臭気が薄れ、次いで表面の光沢が失われる。この間、その区域では足音や話し声がほとんど反響しない。乾燥は10~40分ほどで完了し、表面は一般的な壁材や床材と変わらない硬さになる。
乾燥した接触痕はそれ以上拡張しない。ただし、乾燥の開始時に接触痕の内部に存在した人間や物品は、その構造内に取り残される。乾燥後の構造を破壊して救助を試みた事例もあるが、内部から行方不明者やその遺体が発見されたことはない。乾燥が始まった区域では、「乾燥完了」「検査済」「引渡済」と記された紙が、扉や壁面に出現する場合がある。
「引渡済」の紙が貼られた扉は、乾燥後のわずかな間だけ階層の出口となる。数分が経つと扉は周囲の壁と一体化し、二度と開かなくなる。利用できる時間にはばらつきがあり、正確な条件は分かっていない。階層内に存在する「乾燥まで24時間」という表示と、実際の乾燥時間との関連性は確認されていない。同一地点を24時間以上観察しても、乾燥しなかった例は複数ある。
物品
Level 120 N では、次のような物品が発見される。
- 養生シート
- マスキングテープ
- 作業用手袋
- 保護眼鏡
- 脚立
- 刷毛やローラー
- 延長コード
- 空の工具箱
これらの物品に異常性はなく、現実世界の同種製品と同様に使用できる。製造会社名や規格が記載されている場合もあるが、記載された企業の多くは現実世界に存在しない。作業用手袋や靴底カバーを使用することで、未乾燥面との直接的な接触を一時的に防ぐことができる。ただし、長時間接触した場合は手袋やカバーの形状そのものが記録されるため、完全な防護手段とはならない。
階層内では未開封の塗料缶が発見される場合がある。缶の内部には、灰白色または半透明の無臭の液体が入っている。この液体を壁や床に塗ると、その箇所が未乾燥面と同様の性質を帯びる。液体が皮膚に付着すると、その部位が未乾燥面と同様の性質を示し、接触した物体の痕跡が皮膚上に形成される。発見した塗料缶は、決して開封してはならない。
また、壁面には「施工記録票」と記された紙が貼られていることがある。記録票には区画名、施工日時、乾燥状況、完了率、作業員名などが記載されている。
作業員名の欄には、現在その区画に滞在している放浪者の氏名が記載されることがある。完了率の数値は、新たな接触痕が形成されるたびに上昇する。数値が100%に達した区画では、その直後に乾燥が始まる例が多い。完了率の変化は、放浪者が残した接触痕まで「施工」として数えられている可能性を示している。
食料や安全な飲料水は確認されていない。
備考
ドライヤーや送風機、除湿機、暖房器具などを用いても、未乾燥面の乾燥を促進することはできない。未乾燥面に火を近づけると、表面から大量の黒煙が発生する。黒煙には一般的な塗料の燃焼時に発生するものと同様の有害物質が含まれているため、階層内で火を使用してはならない。
探索時は養生区域から離れず、壁や扉に身体が触れないよう注意すること。特に休憩や睡眠を行う際は、床面の養生シートに破れや捲れがないことを確認する必要がある。未乾燥面に新しい手形や足跡を発見した場合も、それを他の放浪者が直前に残した痕跡と判断してはならない。接触痕は形成後も外見がほとんど変化せず、数年前の痕跡が付いたばかりのように見えることもある。
空間構造と養生区域の配置が変化し、食料や安全な飲料水も得られないため、Level 120 N は定住に適していない。養生区域に置かれた物資や案内標識も、その多くが区域の変化後に所在不明となっている。
入口と出口
階層への入り方
- Level 11 N の雑居ビル内で、改装工事中と思われる「関係者以外立入禁止」の通路を進むと、稀に Level 120 N に到達する。
- 屋内型の階層において、塗料の臭気が漏れ出している扉を開くと、極稀に Level 120 N へ移動する。
- 現実世界では、作業員の退出後に改装中の建物へ立ち入った人物が、Level 120 N に到達したとの報告がある。到達者の多くは、直前に「乾燥まで24時間」と書かれた扉を通過していた。
階層からの出方
- 乾燥を終えた区域で、「引渡済」の紙が貼られた扉を開くと、工事現場や商業施設に類似した屋内型階層へ移動する。移動先として、Level 98 N や Level 11 N が報告されている。
- 「竣工検査済」と記された扉を開くと、稀に現実世界にある改装前または改装後の建築物内へ帰還する。ただし帰還例はごく少なく、扉を開けば必ず帰還できるわけではない。
- 養生シートに沿って進み続けたところ、いつの間にか別の屋内型階層へ迷い込んでいた例がある。移動先に明確な規則性はない。

